ウィズスクエア様のウィズスクエア会員さまインタビューより転載しております。
今回は、ソーシャルファーム様向けにコンサルティングをされているキュベルの風間さんと近藤さんにインタビューさせて頂きました。
ソーシャルファームというまだまだ馴染みの薄い言葉からお伺いしています。
業界について
- 貴社のクライアントであるソーシャルファームとはどういう業種なのでしょうか? | |
Cuvel代表 風間 英美子(以下、風間) |
![]() ソーシャルファームは、社会的な課題をビジネスという手法を用いて解決をするソーシャルビジネスの1カテゴリーになります。 日本においてはソーシャルファームという形態はありませんが、その内容において、障害福祉サービス事業の就労系事業所や特例子会社、障害者を多数雇用している会社などが該当すると思います。 最近ではこれらの事業所が、地域の高齢者、ニート、ひきこもり、子育て中やシングルマザーなど、働きたくても働きにくい人たちの就労の場として範囲を広げるなど、まさにソーシャルファームとして発展している事例も生まれています。 |
-ソーシャルファームとしての障害者就労系事業所(以下事業所)では、共通の課題があるのでしょうか? | |
風間 | 主な共通の課題は、「働き手が、障害種や障害程度や年齢など多様性に富んでいるため、どのようにしたら生産性が高く付加価値が高い事業を行うことが出来るか」があげられます。この課題に対しては事業所資源の棚卸、取り巻く環境の整理分析をすることで、何もできないと思われていたことも、解決のための可能性が見えたり、進むべき方向感が生まれます。
キュベルは事業所がこれらの課題に取り組む支援を行っています。 |
課題について
- 厚生労働省が「工賃倍増5か年計画」の次に、「工賃向上計画」を平成24年度から始めていますが、工賃向上というものはなかなか成果が出ないものなのでしょうか? | |
風間 | 工賃向上の対象となっている事業所(就労継続B型事業所)はそれぞれ設立にあたっての背景があり、工賃向上といってもその捕らえ方は一律ではありません。事業所が対象としている利用者ニーズによっても、工賃向上の意味合いは異なってくると思います。
それぞれの事業所が利用者ニーズを再確認し、その中で工賃目標を設定し、その目標に向けた計画を立案し、実行すれば、工賃向上の成果は出ると考えます。 また成果がでない理由の一つに、工賃向上を目指すと職員の負担が増えてモチベーションが上がらないといった点も指摘されます。 現在の事業を現在の方法で工賃を増やすのであればその通りかもしれませんが、事業を見直す、やり方を変えるなど工夫することで解決する方法はありますし、その中で職員の学びと成長を促し、モチベーション向上を図ることは可能です。 |
- 過去には行政からコンサルタントを派遣してもらって取り組んだが結果が出なかった事業所もあると聞きます。なぜ結果が出なかったのでしょうか? | |
風間 | コンサルタントと事業所間の目的や目標の設定の違い、コンサルタント側での事業所生産活動に関する理解不足、事業所としての工賃向上についての考え方や職員間の温度差などが考えられるのではないでしょうか。 |
自立型の事業や共同受注について
- 脱内職としての「古本販売事業」というのは非常に面白い提案かと思いますが、事業所の職員の方にとっては事業作りというのは荷が重いのではないでしょうか? | |
風間 | 新規事業作りは確かに荷が重いものです。設備投資はどれくらいかかるのか、材料はどこから調達したらいいのか、その経費はどれくらいかかるのか、実際にモノは売れるのか、などなど。
この古本販売は大きな設備投資は不要です。 本を保管する場所と作業する場所があれば始めることができます。 本も寄付でいただくので、かかる経費はほとんどありません。 販売場所も集客販売場所での販売やインターネット販売を組み合わせることができるので、プロセスの中で、どんな利用者でも取り組み易い仕事を作ることができます。 古本販売に向いている事業所は、内職を中心に生産活動をしているところです。 納期がなく、価格を自分たちで設定することができ、内職よりも生産性が高く、利用者の仕事が切れることはありません。 古本事業の特長を押さえることで、これ以外の自立型事業が作れると思います。 |
戦略的事業 パートナー 近藤豊彦(以下、近藤) |
![]() 古本というのはストック事業で、冊数が集まってくるにつれ売上は放物線を描きます。 初めからすぐに工賃に大きく影響するのではないですが、1年、2年と続け、冊数も1万、2万と増えることで成果が大きく表れてきます。 |
- 一方、もう一つの提案である「清掃業務の共同受注」などは、既に清掃業務を行なっている企業との連携なので事業所の職員の方にとっては取り組みやすいと思われます。 | |
近藤 | 事業所は多くが小規模で、大量の発注には対応できないことが多く、せっかくの受注機会を逃してしまいがちですが、共同することでその機会をとらえることが可能になります。平成25年4月1日に施行された「官公需」の受注促進を後押しする優先調達推進法や、民間企業の受注促進を後押しする発注促進税制が追い風になります。
福祉事業所がこれらの追い風をとらえるためにやらなければならないことは、「価格」「品質」「納期」「量」が確保できる体制を整えるということです。 清掃業務は多くの障害者施設が行っている事業なので、優先発注の品目として上がってくると思いますが、体制を作る上で重要なのは、核となる事業所の存在になります。 この事業所が契約主体となって、「価格」「品質」「納期」「量」に責任を持つということです。 この核となる事業所はある程度の規模や実績のある社会福祉法人などの福祉施設であったり、すでに清掃業務を事業として行っている民間企業が主体となった特例子会社や障害福祉サービス事業所などが考えられます。 |
風間 | 共同で行う場合には「品質の標準化」が重要なポイントですね。参加する事業所が、バラツキなく同じ品質で作業ができなければなりませんし、そのための技術訓練が必要です。品質の標準化ができればきちんとした価格設定をして営業をすることができます。品質の標準化のための技術訓練や品質検査については、その事業(清掃業務)を行っている企業と連携することで達成することが可能です。 |
- 企業にとって、事業所と連携することのメリットは有るのでしょうか? | |
近藤 | 企業が主体となって特例子会社や障害福祉サービス事業所を開設し、そこが契約主体となるならば、優先調達法による官公需の取り込みや、発注促進税制での需要の取り込みが可能になります。これは企業としての実益の部分ですが、それ以上に、障がいのある人の仕事を作るという『社会的価値向上の経営』を実践することができます。 |
コンサルタントの役割について
風間 | 不安や悩みを相談していただければ、問題として解決できる形にするお手伝いをします。「問題」の形になればそれを解決するための支援をさせていただきます。キュベルは今までに述べ60施設以上の工賃向上のお手伝いをさせていただいており、お役立ていただけるヒントがたくさんあります。
まずはお気軽にご相談ください。 |
- こういう時にコンサルタントを活用してもらえればと思う時はないでしょうか? | |
風間 | 工賃向上をしたいがどこから取り組んでいいか分からない、新しい気づきで一歩を踏み出したい、新規立ち上げや職員の入れ替わりで軸足を固めたい、利用者の工賃向上と社会参加を実現したい、職員間のチーム力をつけたい、といった場合に、是非ご活用ください。 |
パーソナリティー
- 風間さんは、キュベルを設立される前には何をされていらっしゃったのですか? | |
風間 | 大学卒業後に会社勤務したのち、国内大手の独立系戦略コミュニケーションコンサルティング会社に勤めました。そこでは海外の団体や外資系企業の日本市場における広報戦略を立案、実施をしていました。当時担当していた中に女性のQOLを高める生活改善薬があり、それがご縁で外資系製薬企業に転職し、国内初となる女性の生活改善薬のマーケティングを担当させていただきました。
同時に経営手法を社会的な事業に活用することに関心を持ち、会社勤務を続けながら、英国国立レスター大学MBAを修了しました。 社会的な課題をビジネスの手法で解決に導くソーシャルビジネスに関心を持ち、その分野で事業を行うため独立。 障害者あるいはその他の労働市場において不利な立場にある人たちを雇用する目的で作られるビジネスであるSocial Firmの考え方に出会い、感銘を受け、誰もがあたりまえに働き、働く喜びを感じることのできる場作りのための人づくり・事業づくりに貢献すべく、事業を行っています。 |
- それらの経験が今のコンサルティングに活かされたりするのでしょうか? | |
風間 | はい。今の研修やコンサルティングスタイルは、企業経験がベースになっています。企業では成果が求められますから、目的をおさえ、目標を明確にして、それに向かった計画を作り、実施していきます。このプロセスは業務に関わるメンバーが同じ理解・納得の下で進んでいかなければならないし、同じ理解・納得を得るには、見える形に落としていく―見える化―が必要です。
業務に関わるメンバーの中にはそれぞれの考えがあり、すぐに同じ方向を向くというのは容易ではないですが、同じ方法に向かなければ力は出ません。 素晴らしい計画が出来ても、その担い手たちが、喜んで、モチベーションをもって行動しなければ何も生まれない。 グローバルプロジェクトを含め、様々なプロジェクトを担当してきて、痛感しました。
そんな経験を通して学んだのは、成果を出すには、個々の力とチームの力の両方が必要であること、それには内外からの程よいプレッシャーを感じつつ、切磋琢磨できる環境が必要であること、個とチームが力をつけるには、聞く力、考えを広げる力・まとめる力、推し進める力が必要だということです。 これらは何も企業に限った事ではなく、むしろ、受益者が多様性に富んでいる社会的事業に必要なことだと思います。 ソーシャルファームである事業所の現状に照らし合わせながら、これらの手法を編集し、提供することで、それぞれの事業所が直面する課題解決に役立てられればと思っています。 |
- なぜソーシャルファームに特化してらっしゃるのですか?何かしらの思いがあるかと思われますが? | |
風間 | 工賃向上を目指している事業所のみなさんとお仕事をさせていただくようになって、興味や関心もますます深くなっていくわけですが、そんな目で周りを見渡してみると、生産活動に困惑されていらっしゃる事業所が多いことに気づきました。仕事はしているけどなかなか利益が上がらず、十分な工賃が出せない、自主製品として食品や雑貨を作っているけど十分な売り上げにつながらない、仕事はもらえても納期に対応できない、などなど、様々なお悩みを抱えていらっしゃいます。
その根底にあるのは、働く意識で通ってきている利用者に日々の仕事と工賃を払いたいというものです。 そういう事業所に対しては、現場に合わせたビジネスツールを活用して、ちょっとした視点の切り換えを促すことで売り上げアップや工賃向上が達成できます。 工賃向上に取り組んでいる事業所の管理者の方から、「工賃向上は、稼ぐ、使う、貯める喜びを得ることで社会参加する手段。 この金額が5~6千円と4万円では、社会の中で使える範囲や行動の範囲が異なる。 工賃が高ければ視野の広がりの助けになるとともに、利用者の家庭での役割・存在感が増すと考えている」というお話を伺いました。 まさにその通りだと思います。この仕事を通して、障害のある人の社会参加に貢献できることをとても嬉しく、誇りに思っています。 |